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11/13/2006

『麦秋』『水曜の朝、午前3時』『明日へのチケット』『浮雲』

秋を楽しんでいるヒマもないうちに初冬になったような昨日今日。
今週末もTSUTAYAの半額クーポンを利用して小津の『麦秋』と成瀬の『浮雲』『めし』とかを借りる。邦画は滅多に観ないのだけど、そんな気分だった。
先週、数年前からのベストセラーらしい(本当に最近の小説には疎くなってしまったな)蓮見圭一(全然知らない小説家だし)の『水曜の朝、午前3時』を読んで、S&Gのアルバムも借りた(笑)

『水曜の朝、午前3時』は読んでいるうち、その半ばくらいまでは何というのか、ちょっと硬派なハーレクインロマンス(読んだことないけど)という印象で、じきに積ん読になってしまうかなと思いつつ寝しなに読んでいた。結局読み通してしまったのは、主人公がジョニ・ミッチェルとかジャニス・ジョプリンとか、「あの頃」の音楽を愛しているのが気に入ったから。とはいってもあの頃の曲なんて僕はほとんど知らないのだけど。
読み終えて感じたのは、潔い小説だな、ということ。読みやすい通俗的な恋愛小説でありながら、最後には清々しさとちょっとした力強い何かさえ感じさせた。
いい小説だと思います。

この小説のタイトルはサイモン&ガーファンクルのデビューアルバムからとられているのだけど、小説の中身はこの曲とは一切関係ない。印象的なタイトルだし、この曲の詞にも鮮烈なものがあるけど、小説の主題との関連はどこにも見えない。ただ一カ所、はっとさせられるけど、深追いしない方がいいと思う。
でもまあ、読者にどう思われようが、世に出てしまっている以上、どう解釈するのも読者の勝手だろう。

朝から『麦秋』を観る。
麦秋というのは麦の穂のみのる初夏の頃のことで、季節の秋とは違う。
いや、じつは秋の季節を舞台にした映画と思って借りたのだけどさ(笑)
小津の女性観は好きではないけど、それを原節子に代表させられちゃ認めるしかない。とはいってもやっぱりこの2年後の『東京物語』の原のほうがいいな。映画なんだから、もっと悲壮感というか、いかにも現実が脚色された役柄の方が観ていて楽だし。
菅井一郎と東山千栄子の老夫婦という役柄は、『東京物語』での笠智衆と東山よりは叙情を排していて好ましく思えました。

昼間はもう疲労でぐったりして部屋から動けず。かなり寒かったので、からだをほぐす意味での水泳もやめておく。
途中まで成瀬の『浮雲』を観、夕方から気になっていたオルミとキアロスタミ、ケン・ローチのコラボレート、『明日へのチケット』をガーデンシネマに観に行く。
オルミのタッチは『聖なる酔っぱらいの伝説』以来か。あれはルトガー・ハウアー主演だったんだよな。センチメンタルな部分は健在。3つのエピソードからなっているけど、最初のがいちばんオルミの色が濃かったように思う。
ラストエピソードは爆笑もの。映画でここまで笑えたのはほんと久しぶり。やっぱり心底愛するチームがあるサッカーファンって、いいね。

帰宅してから『浮雲』の続き。ラストは鹿児島〜屋久島でのロケだったので驚く。林芙美子原作だからもっともだけど、ちょっと懐かしい気分になる。あの時代、高麗橋のあたりから桜島が見えたんですね。びっくり。それはそうだよな、現在みたいなビルなんてあるわけがなし。
それにしても森雅之、太宰にそっくり。ニヒルであることの味気なさが痛烈。太宰の方が表現者としてはまだ明るいとは思うけど。


深夜、U-19の北朝鮮との決勝を観ながらフルニエの無伴奏チェロ組曲を聴く。
秋だよな。

 

November 13, 2006 in films |

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Tracked on 15 Nov 2006 21:23:14

Comments

充実した週末をお過ごしですね。

敗戦直後の東京が舞台だった『浮雲』が最後に屋久島まで行ってしまうのがすごい。亜熱帯の植物群と激しい雨風が印象的でした。

『明日へのチケット』、サッカー・ファンのkikuさんとしては泣ける作品ではないですか。

Posted by: | 14 Nov 2006 23:03:49

>雄さま
あの時代だから恋の逃避行的な話を映画にできるんでしょうね。
高峰峰子があんなルーズで色気のある喋り方をするなんて、とちょっと驚きました。
しばらくモノクロの邦画を漁る事になりそうです。

Posted by: kiku | 15 Nov 2006 01:06:51

こんばんは、TBありがとうございました。
『明日へのチケット』は、私はキアロスタミの作品がぶっちぎりで
良かったですね。いつものようにキャストに素人を使わなかったのが新鮮で、
それぞれの人物の背景に奥行きがあるように感じました。
電車から見える並ぶ木々のショットも、これぞキアロスタミだという映像
だと思います。
ケン・ローチの作品も、もうすぐ公開の『麦の穂をゆらす風』を大いに期待
させるものでしたね。

Posted by: 丞相 | 15 Nov 2006 21:30:09

>丞相さま
キアロスタミの人物造形に魅入られたことはなかったけど、これは奥深いものがありましたね。っつうか、役者がプロだったらこうも違うかと。
将軍未亡人のあのまなざしが忘れられない。

Posted by: kiku | 19 Nov 2006 13:00:45

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