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06/25/2007

『進化しすぎた脳』池谷裕二

薬学博士池谷裕二の高校生に対する脳科学講義講座の記録。理系本だけど、ガチガチ文系の頭にもわかりやすい。最終章、アルツハイマーにまつわる話を、ちょっと長いけど引用。

たぶん、人間って動物は長生きしすぎなんだ。本当の寿命は50歳とか、そんなもんじゃないかな。いまは医療の技術が進歩して長生きできるようになってきて、本来だったら発症しなくて済んだ病気になっている。βアミロイドが生涯をかけて少しずつたまっていったとしても、昔の寿命だったら天寿をまっとうできるぐらいの微量だった。だからアルツハイマー病は古代人の間ではあまり問題視されなかったはずだ。でも、現代の人間は長生きしちゃうので、こんなしわ寄せが出てきた。現代社会とはそういう歪んだバランスの上に経っている状態じゃないかと思う。
(中略)
いま人間のしていることは自然淘汰の原理に反している。いわば<逆進化>だよ。現代の医療技術がなければ排除されてしまっていた遺伝子を人間は保存している。この意味で人間はもはや進化を止めたと言っていい。
その代わり人類は何をやっているかというと、自分自身の「体」ではなくて「環境」を進化させているんだ。従来は、環境が変化したら、環境に合わせて動物自体が変わってきた。でもいまの人間は遺伝子的な進化を止めて、逆に環境を支配して、それを自分に合わせて変えている。
(中略)
健康な人でも明らかに環境を支配しているよね。都市やインターネットをつくるなんて、まさに環境を変えることでしょ。そういうことができればもう自分の体は進化しなくてもいい。そんなことを人間はやり始めている。新しい進化の方法だ。

このあと、著者はデザイナー・ベイビーについて言及する。が、体外受精がポピュラーになって、着床前診断により子供の「質」を選ぶことができるようになった現在の倫理観の是非を問うことはしない。それはここでは問題ではない。
でも、「欲望」という言葉が使われるのは必然だろう。

今までは外部の環境に合わせて生物は進化してきたでしょ。でもこれは違うよね。デザイナー・ベイビーは環境とは関係ない進化。人間の欲望が進化の法則になろうとしている。
自然淘汰というのはいわばプロセスだよね。進化というプロセス。でも現代では、進化のプロセス自体が進化しはじめた。新しい進化法が生まれようとしている。

ネガティブな意味合いで使われることの多い「欲望」という言葉だけど、実際のところ、その是非を人間が判断することはできない。それは進化の過程において、自然と分かってくるものなのだろう。そのあとでどっちに行くかは誰にも分からない。

 

June 25, 2007 in books |

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