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02/20/2008

「ダイング・アニマル」フィリップ・ロス

20代愛人との性愛に溺れる60代批評家・私(当然ロス自身?)の、嫉妬と性欲にがんじがらめになる過程が声に出して笑えるほど面白い。でもそこに滑稽はない。ユダヤ系アメリカ人作家でありながらユダヤ人に批判されることも多い辛辣家ロスが抉り出し、明るみに出すものの前には結局沈黙せざるをえない。自分の息子との関係をカラマーゾフの父子と対比させるあたり、その普遍的な業の深さにおいて。

愛人との行為を「私」はこう描く。

しかし、ここで私は絶頂に達する。幻のレッスンは終わり、しばらく私は情欲に病むこともない。これはイェイツだったか?「わが情念を焼きつくし給え、情欲に病む情念、死を背負う獣性に金縛りになった情念は、身のほどをわきまえぬ」。イェイツ。そうだ。「官能の妙音に捕われの身の者は」云々。(p96)

イェイツはドストエフスキーのカラマーゾフを読んでいたのかと思わせるような。年代的に可能性はある。読んでいなくても、「身のほどをわきまえぬ」という言い回しのどろりとした絶望的な深さにはフョードル・カラマーゾフを彷佛させるものがある。

ロスの小説は読みやすく、好きだ。といっても「さよならコロンバス」「背信の日々」「いつわり」「父の遺産」くらいしか読んでない。「コロンバス」なんて中学生の時だったからどんな話だったかさえ覚えていない。「ダイング・アニマル」の前作「ヒューマン・ステイン」を原作にしたロバート・ベントンの映画「白いカラス」(アンソニー・ホプキンス、ニコール・キッドマン主演)は傑作だったけど、原作はその厚さに恐れをなして読んでいない(多分、めっちゃくちゃ面白いと思う)。
全部読破したいですね。とくにフィリップ・ロスを語るなら欠かせないはずのいわゆる「ザッカーマン三部作」は。

 

February 20, 2008 in books |

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