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04/05/2011

SOMEWHERE

Somewhere08

冒頭、固定カメラで切り取られたラスベガス郊外のサーキットを、乾ききった甲高いエンジン音を響かせてかっ飛ばす黒いフェラーリ。フレームインしてはフレームアウトを繰り返す、何も変わらない、ただ惰性で流れるだけの日常を象徴するような反復。そしてそれにも倦いたのか、走り終えて降り立ち、茫然と立ち尽くす主人公。
このワンカットで、観る者に一切が明らかにされる。この2分足らずのワンカットだけで主人公のメンタリティのすべてが詳らかにされる。そういう男の映画だったのか、と僕らはソフィア・コッポラが造ろうとした主人公ジョニー・マルコ(スティーブン・ドーフ)のメンタリティと日常感覚に一瞬に馴染んでしまう。この冒頭だけで。

前々作「ロスト・イン・トランスレーション」同様、映画の中では何も起こらない。酒とパーティーと女漬けの毎日で、投宿しているシャトー・マーモントに双子のデリバリー・ポールダンサーを呼んで踊らせているうちに眠りこけてしまうばかりの空虚なだけの日常。離婚した妻との間の娘クレオ(エル・ファニング)を預かり、一緒に過ごしている間優しい気持ちになることはあっても、いつかまた元の日常に戻っていく。
そういう時間を、ソフィア・コッポラは深刻ぶることもなくユーモア交えてオフ・ビートで描く。
惰性で生きる男の抱える孤独とか最後に気付かされる家族の絆の大切さとか、紋切り型のテーマはいくらでも簡単に見つかるけどそう単純なことでもなく、ほんの些細な事柄から引き起こされる微細な心の揺らぎと焦燥感を象徴的に、優しく掬いあげて見せている。なんということもない、日常の光景をを淡々と切り取ってみるだけで。
かつて同じシャトー・マーモントの一室で、フランシス・F・コッポラの膝の上で過ごしたであろうソフィアの原点を想像させるに十分な、そういうたわむれの時間帯。

ガス・ヴァン・サント組のハリス・サヴィデスの撮影がいい。紗のかかったような、絆のような何かを伝えている逆光気味の柔らかい空気感。
シャトー・マーモントでの卓球とか時間が止まったようなプールサイドでの昼寝、Wii Sports に興じるひととき、そういう幸福にも思える時間帯にも潜んでいる哀しみとかネガティブなものまで余すことなくサヴィデスのカメラはさらっと写し取り、ソフィア・コッポラが描こうとする主人公の心象風景を的確に、あるいは監督自身気づいていない脚本以上の何かを広げてみせる。
特に、クレオがギンガムチェックのコットンワンピース姿で無心に朝食を作っているシーンが秀逸。あそこにどれだけの愛が注がれていることか。ソフィア・コッポラの、ハリス・サヴィデスの、脚本の、あるいは役柄を離れたスティーブン・ドーフ本人の。

Somewhere07
 

「ソーシャルネットワーク」同様、音楽が印象的。予告編が Toutube で公開されたとき、ジュリアン・カサブランカス(The Strokes)の "I'll Try Anything Once" に打ちのめされた。映画表現におけるソフィア・コッポラの世界観そのままの繊細で、メロディアスな旋律。それにしてもいいタイトルですね、I'll Try Anything Once.
ラストにブライアン・フェリーの "Smoke Gets In Your Eyes" が流れていたけど、ソフィア・コッポラってよほどロキシーが好きなんでしょうね。「ロスト・イン・トランスレーション」ではビル・マーレイに "More Than This" を歌わせてたし。

エレベーターでのほんの10秒ほどののカメオ出演だったけど、デル・トロ存在感あり過ぎ。このとき主人公に教えてくれたけど、U2のボノが宿泊したのは主人公が泊まっていた59号室。これマメ知識な。

Somewhere06
 

April 5, 2011 in films | | Comments (2) | TrackBack (0)