自傷系アートの行方 ー松井冬子ー
先月 NHK でやっていた、日本画家・松井冬子の特集「痛みが美に変わる時〜画家・松井冬子の世界〜」の録画をやっと観ることが出来たので、覚え書き的に。
僕個人としては上野千鶴子がラストにインタビュアーとして出てきたのがウザかったんだけど、考えさせられるところも突っ込みどころも多く、松井のキャラクターも併せて概ね楽しめた。
番組タイトルの通り、松井は幼い頃に暴力的なことで被った肉体的な「痛み」を、あるいはその記憶を、さらには傷つけられたことから来るトラウマをモチベーションとして作品を描き続けてきた。そういったものを連想させるものを描いてきたのは、暴力の向こう側に見えてくるもの、そこにある(人と人との)関係性を描きたかったからだ、と本人も言っている。
が、見ているとどうも、今ではたまたまその題材がいわゆる「自傷系アート」と形容されるテイストを持ち併せているだけのことで、松井本人としては苦痛、痛み、あるいはそれを被らせた対象への呪詛、そういったものを描いているのだと評されることについてはもう、倦んでいるようにも感じられた。確かに初期の頃の動機にはそれもあっただろうけど、もう、動機を超えて、描きたいことそのものとなっている、そんな気がした。あるいはが、技術も含めて日本画そのものの追求の手段として描き続けているのではないか、と。
そのあたり、ストイックな姿勢を感じないでもない。
彼女の作品を鑑賞することに、たいていの男は抵抗を覚える、それは狙いどおりだと本人も笑って告白していたが、そういうどこか復讐めいたもくろみは、もう、どうでもいいじゃないか、と言いたくなるほど(テレビで観ていても)凄絶で、静謐を湛え、素晴らしい。
また、それを描いているのがこれだけの美人だ、というのも男を引かせる要因の一つだという風潮(笑)もあるけど、いやー、今後どれだけの作品を僕らが目の当たりにできるのか、そして、自傷系などと冠されることの無意味さを知らしめる作品を彼女がいつモノにするのか、期待せずにいられない。
May 16, 2008 in art | Permalink
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