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05/15/2006

皇帝、『美しき運命の傷痕』

起床後『題名のない音楽会』でフジコ・ヘミングの『皇帝』第2、3楽章をやっているのを観る。彼女のピアノは初めて。きらびやかというか、ミーハーな音だなと思う。ベートーベンのピアノだったら一番馴染んでいるのがバックハウスなのでそう聴こえるのかもしれない。
一度聴けばじゅうぶんかなあという音であった。

モーニングショーを観るためにテアトル梅田までチャリを飛ばす。

それにしても『美しき運命の傷痕』というタイトル。
どうしてこんな邦題をつけるのだろう。キェシロフスキの原案だと知ることがなければ観に行く気にもならなかっただろうな。原題通り、『地獄』でいいじゃないか。って、それじゃ尚更お客さんこないか(笑)

冒頭、カッコウの托卵、同じ巣の中で他の鳥の卵より早く孵ったヒナが他の卵を落としていく光景は、ある意味衝撃的で印象に残る。この作品のメタファーか。この映像は後半、自分の論文に対する質疑応答なのだろうか、三女が自分の通う大学の教授たちの前で語る王女メディアの逸話と絡み合う。

何にしても不倫と子殺しはいつの時代にもある(この映画に実際の子殺しは出てこない。メンタル的な子殺しがクローズアップされているだけで)。遺伝子という言葉で片付けたくもないけど、その思惑に従えば仕方のないことなのだろう。長女は夫の不倫(これがなんというか、男の僕から見ても愚かで可愛いものなんだけど笑)を許せず、男の身勝手に苛まれるあまり自分の身勝手さに盲目になり、子供をうまく愛することができない。多分、自分の母親がやってきたことを自分も繰り返しているのだということにさえ気付いていない。
三女は不倫相手の大学教授(ジャック・ペラン)との子供を身ごもり、教授の(自分の友人でもある)娘を容赦なく傷つけることになる。
彼女たちの母親(キャロル・ブーケ)はまだ彼女たちが少女だった頃、夫の少年愛の行為を目撃して(それは結局誤解だったのだけど)激怒し、娘たちを手放した。
ただ、次女は少女時代のトラウマからずっと男に対して臆病なままで、不器用なりに捕まえたと思った男はゲイだったというのは、遺伝子の企みからすれば失敗だったということか。ただ、この男はこの映画の重要な鍵になっている。詳細はもちろんここでは言えない。

確かに「運命」あるいは「偶然」という言葉がキーワードになっているけど、それは言葉にしか過ぎなく、その言葉を使うこと自体が弱さであると同時に人間であることの証明でもあることを思えば、まあ、情なんてどれも移ろいやすくはかないものなのですね。ジャン・ロシュフォールの手にしている万華鏡がそれを表現しているように思えてしかたなかった。Lenfer

そのはかなさを無視するというのか、鼻で笑うことのできるキャロル・ブーケ演ずる母親の存在感に驚愕する。というか、キャロル・ブーケの役者根性に絶句したという方がしっくりくるか。


ファーストシーン、巣から落ちたカッコウのヒナを刑務所から出てきた父親が救い上げて巣に戻したのは遺伝子の企みに対する痛烈な皮肉であり、ささやかな抵抗か? 救いはある.....
と一瞬思ったが、正反対か。

May 15, 2006 in films |

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