原節子、2題。『めし』『白痴』
成瀬巳喜男の『めし』を観る。原節子と上原謙。上原の演技を観るのは初めてかもしれない。CMしか記憶にないもんな。大根もいいとこだけど。
結婚数年目の、倦怠期にある夫婦の日常。未来を思うこともなくなり、味気ない日常を米をとぎつつ淡々とやり過ごすこともつらくなってきた頃か。そういう時期にある主婦を演じる、絶望を覗きたくないんだけどこのまま絶望に向かうのかなと不安で押しつぶれそうになる原の眼差しが物凄い。そういう眼差しをひきだす成瀬の手腕も素晴らしいのだけど。
ラストシーンのオチには平成的には何だかなーであるが、昭和20年代にはすっと胸に沁みるものがあったのだろうか。
このDVDを観るまで原の出演作品は小津のものしか知らなかった。成瀬の『めし』で新鮮なものを見たような気になれたので、他の監督のも観てみようと黒澤明の『白痴』を借りる。ドストエフスキーのムイシュキン公爵を森雅之が演じているのだと知って、『浮雲』の厭世観たっぷりの存在感を思い出し、あまり期待しないほうがいいかのなと観始めた。舞台はペテルブルクに代わって札幌。札幌らしいんだけど、街の全貌は全然見えてこない。むしろ小樽的な雰囲気が濃い。陰鬱で、重い。重いんだけど、引き込まれた。黒澤的な力強さはこの作品の底辺にしっかり流れている。
当然ナスターシャ(那須妙子)を演じているのが原節子。
すげえ。
としか言いようがない。マリア・カラスばりのメイクでファムファタルとは斯くの如しかと息を呑む。アグラーヤを演じる久我美子がすっかりかすんでしまっている。愛憎劇の極北がそこにある。こんな演技もしてたんだ、原節子。
小津映画の常連、東山千栄子もいい。弁舌闊達で、小津作品からは想像もつかない明るい生命感がある。この映画の中で唯一ポジティブな存在をさらりとこなしているという印象。森はやっぱり厭世観が滲み出てしまっていてムイシュキン公爵の清々しさからは外れてしまっていたように思う。作り込み過ぎじゃないのかな。
『羅生門』につづいてコンビを組んだ三船敏郎はハマリ役だったけど。
November 20, 2006 in films | Permalink
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