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12/10/2006

『ノスタルジア』

深夜、テレビのチャンネルを回していたら、霧の深い緑の丘陵地を走るフォルクスワーゲン。ああ、『ノスタルジア』のファーストシーンやないか? と観ていたら案の定そうでした。もう寝るつもりだったのだけど、そのまま引き込まれて最後まで。
エウジェニアを演じたドミニツィアーノ・ジョルダーノが、神話の世界かと思うほど美しい。

とにかく長回しで有名な監督の映画なのでカット数が極端に少なく、今まで確か3回しか観ていないはずだけど、すべてのカットを覚えていた。すみずみまできりっとピントが合っているし、その薄青い色調がもたらす透徹感は想像を絶していて、こちらの背すじはすっと伸びる。撮影は誰だったっけと後で調べてみたらタヴィアーニの『カオス=シチリア物語』『グッド・モーニング・バビロン』、リリアーナ・カヴァーニの『フランチェスコ』のジュゼッペ・ランチ。これにはぴんとこなかったのだけど、結局すべてタルコフスキーの緻密な計算のなせる技だろう。ガラスの瓶一つの置き方、その瓶がはね返すうつろう光の扱い方の見事さには溜め息だけでは済まされないものがある。
多くの画家はもちろん、映画人にとってインスピレーションの宝庫だろうな。

タルコフスキーがこだわる水の記憶、母の記憶はこの映画の中でも最重要なテーマとなって映像化されている。殊に水が、美しい。故郷の家を写す聖堂の廃墟(サン=ガルガーノ寺院)の水たまりの水、狂人ドメニコが住む家にしつらえた箱庭によどむ水、家の中に雨のように降り注ぐ水、湯を抜かれた温泉の底に溜まった水、廃墟のなかの沼の水....
そればかりではない、水の音も素晴らしい。降っては止み、また降り出す雨の音、雨が水たまりを叩く音、石造りの建物が反響させる水たまりを踏む音。
そういうのをじっと追うだけでも飽きることのない映画。

テーマの一つである宗教的な部分への理解はまったく無いのだけど、また観るだろうな。いや、それより、いつかサン=ガルガーノ寺院があるトスカナ地方をレンタカーで回るのが先、か。

December 10, 2006 in films |

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