『Zodiac』敗者を描くデヴィッド・フィンチャー。
ロバート・ダウニー・Jrの出演作がかぶったけど、D.フィンチャー監督作品の『ゾディアック』を選ぶ。ダイアン・アーバスを題材にしているだけに『毛皮のエロス』も観たかったのだけど。気になる役者です、ダウニー・Jr。薬付けになって以降の作品群、ほんと味わい深くなりましたよね。
前半の舞台となるクロニクル社のオフィス風景が『大統領の陰謀』にそっくり。ウッドワード(ロバート・レッドフォード)とバーンスタイン(ダスティン・ホフマン)がそのままエイブリー(ダウ二ー・Jr)とグレイスミス(ジェイク・ギレンホール)にかぶさりました。そっくりだと思いません? ニクソンのステッカーらしきものも見えたしね。ウォーターゲート事件の2年くらい前の事件だったのですね。フィンチャーがこの映画を意識しなかったわけがない。同じ時代を切り取っているのだから。
っつうか、オリジナルスコアを担当したデヴィッド・シャイアは『大統領の陰謀』もやってるじゃん!!
フィンチャーは冒頭、Donovanの "Hurdy Gurdy man" で何の衒いもなく観客をその時代の空気に引き込み、シビれさせる。『セブン』ほどの毒気はないけれど、この導入は秀逸。オープニングクレジットのタイポグラフィもフィンチャーならではのこだわりで、『セブン』でブレイクしたカイル・クーパー(タイトルデザイン)もちょっと嫉妬したかもしれない(そのクーパーのオフィスはこちら→prologue films) 。アメリカン・タイプライターを滲ませたフォントに、犯人「ゾディアック」の暗号文を溶解させたような処理が、好きな人には堪えられないでしょうね。でも、あくまで控えめなのか好ましい。
音楽だけでなく、意外にもさほど映像技巧を凝らせていないフィルムの薄い質感が、サイケデリック・ムーブメントのただ中の空気感を伝える。誰もが期待するはずのエッジの効いた映像ではなく、トーンの低い、どこか頼りない浮遊している感じ。
物語を簡潔に説明するなら、ある種目立ちたがりの犯人ゾディアックのツボに嵌ったオタクが人生を狂わせられていくという話、といえばいいか。主題は謎解きにはない。フィンチャーはそんなことには興味がない。脚本にはタッチせず演出力でモノを云わせるのみ。
フィンチャー自身がこの事件に関して徹底的にリサーチをしたオタクだから(だよね?)、タイムラインに乗った主人公たちの心境の微妙な変化の描写が残酷とも思えるほどで、マーク・ラファロ演じるトースキー刑事の寂しそうな表情が胸をうつ。
同様にアル中の辣腕記者エイブリーは、だってこれダウ二ー.Jrの地でしょ? っつうハマりすぎのへろへろの演技で、物語半ばで消えていくんだけど、覚醒したかのように事件を追うグレイスミスがメディアに取り上げられるのをテレビで見たときのこれまた寂しそうな表情といったらない。
あるいはこれだけが撮りたかったのかもしれない、とさえ思う。
『セブン』に勝者はいなかった。『ゾディアック』しかり。フィンチャーは敗者の臓腑をえぐるような物語を撮る。
傑作。
July 6, 2007 in films | Permalink
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