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10/11/2005

太宰、涙の谷。

太宰治の小説はその文章のうまさに引き込まれてほとんど読んだつもりだけど、小説家の生涯についてはほとんどなにも知らない。知っているのは津軽の豪農に生まれ、玉川上水に愛人と入水自殺した、ということぐらいだった。その愛人も、出版社の編集者だと思っていたのだけど、それは有島武郎の心中相手だった。はずかしい勘違い。

小説を読む限りかなり自虐的な性格なんだろうなと窺うこともできたけど、実際の人生についてまで興味を覚えることもなかった。集中的に誰々の作品を読みたいという気分はあっても、書いた小説家のことをよく知りたいというのは、なかなか、ない。日本の小説家についてそういうことが多いような気がする。

昨夜豊川悦司が太宰を演じたテレビドラマ(田中晶子脚本)を観て、その知らなかったいろんな事を知り得たけど(一番ビックリしたのは口述筆記をしていたこと!)、小説との重なり合いを想起させるシーンがいくつかあって、そっちの方が面白かった。『富獄百景』はそのままだったけど、『女生徒』『冬の花火』とかね。最初からそこだけに注意して観ればもっと面白い発見があったかもしれない。つっか、久しく読み返していないので、発見しようったって、忘れているか(笑)

バーでうらぶれた感じで桜桃を食べるシーンがあったけど、できればせっかく寺島しのぶが妻を演じているのだから、「お乳とお乳の間に、涙の谷....」といわせて欲しかった。
どうだろう?
太宰の幾多の小説のなかでは一番印象に残る場面なんだけどな。他の読者はどんなものだろう?

October 11, 2005 in books |

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太宰治のドラマ、少しだけ見てしまった。 寺島しのぶのラストシーンがすごく良くて、... [Read More]

Tracked on 12 Oct 2005 00:45:41

Comments

実は、私の祖母が戦前から中野でやっていた下宿屋は中央線三文文士のたまり場でみんなお金が無いからしょっちゅう、
「大家さんのところにごはんを食べに行こう!」といっては目黒の祖母の家を襲撃していたらしいです。
そのうちの一人が太宰で。幼少の頃の父は太宰のあぐらの中で大人たちの会話を聞いていたと言っていました。父自身は早くに自分の父親が亡くなっていたので、大人の男の人達に触れる唯一の機会だったそうです。
私は子供の頃から太宰がどんな男だったかという話を耳にタコができるほど聞かされました。
中学生くらいになって国語の授業で太宰を勉強したとき、世間で言われている姿と私が父から聞いていた姿があまりにも違いすぎて混乱しました。(笑)
私自身は太宰の作品は初期から中期が好きです。
どれも好きで選べないけれど、多分これから太宰を読もうという人が最初には手に取らないだろう作品あたりをあえてお薦めしてみます。(笑)
『ろまん燈籠』とか『正義と微笑』とか『華蜀』とか。
あとは、『新釈諸国噺』『カチカチ山』(多分文庫一冊にシリーズの短編が全部入っています。)
なんというか、私が父から聞いていた太宰の姿が一番現れている(それもこどもの目から見たある一面に過ぎないだろうけれど)気がします。
そのドラマ観たかったなあ。

Posted by: 百桃 | 12 Oct 2005 04:07:46

>百桃さま
どひゃー。いい環境だったのですね(笑)
いま、そんな作家はいるのでしょうか。酒と女と薬におぼれつつも、後世に残るような作品を書き続けるような。無頼な感じの作家って、すっかりいなくなってしまいましたね。
いるのかな。
『ろまん燈籠』は好きです。

Posted by: kiku | 12 Oct 2005 23:02:05

うーん。やっぱり天才ですよね。30年に一度の逸材というか。
酒と女と薬というけれど、ぞれがずっとだったわけではないようですし、実際とても体格が良くてがっしりしていて逞しかったらしいですよ。
体力が無い弱々しいイメージではないそうです。
村上春樹がいうように、やっぱり身体がよくないとものは書けないのかもしれないですね。
晩年でしょうね。色んなことが変わってしまったのは。

Posted by: 百桃 | 16 Oct 2005 01:43:08

>百桃さま
集中とか根気とか、やっぱり身体が基本ですからね。
芥川よりはずっと健康的な気がします。
でも芥川の方がいかにも「作家」風情なのですけど(笑)

Posted by: kiku | 16 Oct 2005 21:23:42

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